「ソウルくぅ~ん、おっかえり~」
アパートに帰った俺を、魔猫ブレアが出迎えた。
黒い帽子を被った、黒猫の姿。
俺とマカが、こいつを魔女だと思い込んで退治しに行ってからというもの、なぜか俺たちに懐いて、今では一緒に暮らしている。
好き勝手にしているようで、意外なところで義理堅く、キャバ勤めの給料を生活費として入れたり、家事を手伝ったりもする。
特に、風呂掃除はブレアの仕事だ。
しょっちゅう風呂に入るブレアは、自分のために毎日風呂を磨いている・・・もちろん、魔法を使ってだが。
しっぽを俺の足にからめるようにして、まとわりついてくる。
「お風呂わいてるよん。お風呂が先? ゴハンが先? それとも・・・ブレアが先?」
「おい! なんだよその最後の・・・」
ブレアの言葉の途中でイヤ~な予感がした俺は、思わず体を引いた。
案の定だ!
もわん、という音と共に、ブレアが猫からオンナの姿に変わる。
マカとは比べようもないナイスバディ。
フーセンを二つ並べたかのようなムネ。細い腰に、きゅっと刻まれたヘソ。はちきれそうなショートパンツに包まれたケツ。
露出度の高い服は、真っ白いムネの半分程度しか隠していない。そのムネを、文字通り猫が身体を擦り付けて甘えるように、俺に押し付けてくる。
毎回のことながら、ほんっとこれには参るんだよ!
「だから、やめろって!」
いつもだったら、鼻血噴いて倒れる俺だが・・・
今日は、違った。
さっきの、マカとの一件で、どうも・・・
体の熱が、収まっていなかったようで。
「あらら、珍し~い。どうしちゃったのぉ? 鼻血ブーしないのぉ?」
ブレアが大喜びで、俺の頭をムネの間に抱き寄せる。
なめらかで、やわらかなソレは、俺の頭を余裕で包み込んでしまう。
ううっ、くっそー・・・
落ち着け、俺!
ブレアは、こんなカッコしてても、猫だ、猫!
自分に言い聞かせても、弾力のあるムネにはじかれて、理性が飛んでいきそうだ。
触れて。
揉んで。
つまんで。
そして・・・!
想像して、喉がゴクリと鳴る。
手が、その白い柔らかなモノに、思わず手を伸ばす。
「今夜はマカもいないしぃ、ブレアと気持ちいいコトしちゃおっか」
その一言で、風前の灯だった理性が戻ってきた。
あ、あぶねぇ! 本気で、手ェ出すところだったぞ。
とたん、鼻の奥が熱くなったかと思うと、いつものモノが・・・!
COOLじゃねェ。
鼻にティッシュを詰めてうなだれる俺。
しゃがみこんで箱ティッシュを抱えたブレアが、そんな俺を面白そうに眺めている。
「ははーん、さてはソウル君。マカとなんかあったわね?」
カッと、頭に血がのぼった。
「なっ、なんかって・・・」
俺が思わず顔を上げて言うと、ブレアは両手を組み合わせて、身体をくねらせて笑った。
「やーん、ソウル君ってば、かーわいい! 図星だ、図星―!」
「ちっ、ちが・・・」
「今夜は鯛のお頭付きかニャ? それともお赤飯かニャ?」
「まだそこまでいってないつぅの!」
しまった。
ああ、COOLじゃねェ。
なんでこんなこと、ブレアに言わなきゃなんないんだ!!
ブレアが、ニヤ~ッと笑って俺を見守っている。
「軽く、・・・、しただけだって」
俺がボソッと言うと、
「いやーん、ほんとにぃ? 軽くぅ?」
つっ、と俺の顎に指をかけると、ブレアは長いマツゲの下から、俺を上目遣いに見上げた。
「ソウル君は、軽ぅーいキスだけで、こーんな気持ちになっちゃうのかしら?」
俺は、ビクッと身体を震わせた。
顎から離れたブレアの指先が、なぞっているのは・・・
うう・・・な、にも言えねェ・・・
マカ・・・COOLじゃない俺を、許してくれ!
「なーんてね!」
ぎりぎりと歯をくいしばって耐える俺を、パッと唐突に解放すると。
ブレアは勢いよく立ち上がった。
「あーあ、おなかすいたぁ。ゴハンにしよ、ゴ・ハ・ン♪」
何事もなかったかのように、俺に手を差し出す。
「今日はねぇ、マカがいないから生魚! お刺身買って来ちゃった♪」
生魚の嫌いなマカのために、普段俺たちは、絶対に刺身を買わない。ブレアはここぞとばかりに奮発したのだろう。
俺は、飛び跳ねるブレアを尻目に、再びがっくりと肩を落として呟いた。
「ったく・・・なんで分かったんだよ」
「えー? それは、女の勘ってヤツかニャ?」
キッチンに消えたブレアが返事をする。
「・・・そーかよ」
俺はふてくされてながらも、立ち上がった。
一緒に生活をしてる以上、気取られてもおかしくはないが。
こうなると、ことあるごとにブレアにからかわれそうだ。
ことあるごとって? 別に、他意は・・・ないとは言えないけど。
「んで、マカはだいじょぶ?」
ダイニングテーブルに、刺身ののった皿を並べながら、ブレアが尋ねる。
「ん、まぁな。体は動けねェけど、数日で呪いも解けるらしいし」
シュタインが言ったことだ、たぶん大丈夫だろう。
俺は、それを手伝いながら応えた。
すると、ブレアは訳知り顔でウンウンとうなずいた。
「あー、だからキスだけだったのかぁ。じゃ、お頭付きはその時だね!」
「う・・・うるせェ!」
再び、俺の顔に血が上った。
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あとがき
お赤飯は、初潮のときですけどね。めでたいっていうニュアンスを・・・
ナイスバディの描写は難しい。
貞操の危機っていうほど、危機じゃなくてスミマセン。
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